防衛
July 9, 2026
自衛隊が直面する防衛装備品の「DMSMS(廃番・部品枯渇)課題」を解説。中小サプライヤーの撤退や図面なき部品など、国内サプライチェーンの空洞化リスクに対し、MadeHereのデュアルユース技術による部品再製造と維持コスト削減のアプローチをご紹介します。
防衛装備品の維持・運用において、日本語では「製造源の消滅と材料供給不足」を意味するDMSMS(Diminishing Manufacturing Sources and Material Shortages)と呼ばれる概念があります。
米国防総省によって体系化されたこの概念は、軍隊におけるサプライチェーンリスクを体系的に整理したDSPO(*1)発行のガイドブック「SD-22」において、長年にわたり議論され続けてきたサプライチェーン上の課題です。そして今日、日本の防衛においても、このDMSMS課題は避けて通れない問題となっています。
本稿では、防衛および民間プラント・工場におけるDMSMS課題解決ソリューションを専門に提供するデュアルユースのスタートアップである株式会社MadeHereが、日本の防衛におけるDMSMS課題を解説します。
*1 DSPO(Defense Standardization Program Office) :アメリカ国防省における防衛標準化プログラムを統括・管理する中核機関

DMSMSの本質は、「高額かつ長期運用される防衛装備品が、市場から消えたわずか数万円の部品一つによって、機能不全に陥る」という国防の持続可能性を揺るがす構造的リスクにあります。戦闘機や艦艇、車両システムといった防衛装備品は20〜40年以上にわたる長期運用を前提としていますが、そこに搭載される半導体や電子部品、専用素材のライフタイムサイクルは、激しい民生市場のトレンドに引きずられ、年々短縮しています。この「装備品の長寿命」と「部品のライフタイムサイクル」の圧倒的な非対称性により、まだ十分に使えるはずの装備品が、「直したくても、世界中どこを探しても交換部品が生産されていない」という、防衛組織のコントロールを超えた稼働停止リスクに直面し続けることになります。
また、この問題は軍事領域に限りません。民間のプラントや工場など一瞬の停止も許されない現場においても、部品が「調達できない」事態は事業継続を揺るがす最大のボトルネックになります。
補足:米国防総省(DoD)では、製造元や供給元が品目の生産・サポートを中止した場合、あるいは原材料の供給自体が入手不能になった場合を「消滅」と定義しています。
自衛隊が抱えるDMSMS問題の根本にあるのは、日本の防衛産業基盤そのものの脆弱化です。以下の4つの構造的課題が、問題をより深刻なものにしています。
日本の防衛調達には、特定の部品・コンポーネントを一社だけが供給する「一社一品構造」が根強く残っています。当該企業が廃業・撤退した場合、代替供給源が存在しないまま部品が市場から消滅します。競争原理が働きにくい防衛調達の慣行が、このリスクを構造的に温存してきました。
護衛艦一隻の建造には約8,300社ものサプライヤーが関わるとされていますが(*2)、こうした防衛関連の供給網を担うのは主要な重工業メーカーではなく、大半が年商1〜10億円クラスの中小企業や従業員50人未満の零細企業です。
帝国データバンクが防衛関連企業4,395社を対象に行った調査(*3)によれば、従業員50人未満の企業は2013年から2022年の10年間で3,633社から3,352社へと純減281社となった一方、50人以上の企業は935社から1,043社へと純増108社となっていました。年商ベースで見ても、10億円未満の中小企業は325社の純減、10億円以上の企業は152社の純増と、長年にわたり裾野を支える中小・零細企業の深刻な離脱が起きていたことが分かります。
現在、高市政権の下で防衛費は2026年度予算で史上初めて9兆円を突破(*4)し、GDP比2%目標も当初計画より2年前倒しで達成される(*5)など、国内サプライチェーンの強靭化が強力に推し進められています。しかし、過去10年以上にわたる「防衛事業の低採算性」や「後継者不在」によって進行した空洞化の傷跡は深く、失われた供給網を予算だけで即座に復元することは極めて困難です。 予算増額の恩恵が中堅・大企業に行き渡る一方で、すでに撤退してしまった中小サプライヤーとともに「その企業固有の製造ノウハウや代替の効かない部品・工程」は国内から姿を消しました。
過去に積み上がったこの「供給網喪失のリスク」こそが、現在の自衛隊の稼働率を脅かす深刻なDMSMS課題(部品枯渇)として、今まさに顕在化しているのです。
*2参照:防衛装備庁「防衛産業の実態 -ご説明資料-」
https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/soubiseisakukaigishiryou/kentoukai01_shiryo04.pdf
*3参照:帝国データバンク「防衛関連産業4395社の実態調査」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/o7g54tg34vbq/
*4参照:時事通信 「防衛費、過去最大9兆円 無人機取得、処遇改善を加速―予算」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025122600204&g=pol
*5参照:東京新聞「高市政権、防衛費『GDP比2%』を2年前倒しで実現へ」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/452453
特に深刻なのが、製造図面が現存しない、あるいは現場の「技」に依拠していた部品の再調達問題です。図面がなければ、現物から寸法・材質・仕様を逆設計するリバースエンジニアリングなしには再製造ができません。中小企業依存度が高く、技術継承が十分に進んでいない日本の防衛産業においては、この問題が特に顕在化しやすい状況にあります。
自衛隊が運用する米国由来の装備品(F-35、PAC-3、イージスシステム等)については、部品の仕様情報・製造情報が開示されていない場合が多くあります。技術移転の範囲外にある部品のDMSMS対応は、米国のサプライチェーンに全面的に依存せざるを得ない構造になっており、自律的な維持対応の限界を生んでいます。
DMSMSが現実の問題として顕在化すると、以下の連鎖が起きます。
交換部品の枯渇は、故障機体を修理できない事態を招きます。特定機体から部品を転用する共食い整備(キャニバリゼーション)と呼ばれる応急処置が常態化すれば、部隊全体の可動率を押し下げ、防衛力そのものを減衰させることになります。
正規ルートで入手できない部品を非正規市場・中古市場から調達することで、偽造部品混入のリスクが生じます。特に電子部品においては、装備品の信頼性と安全保障上の深刻なリスク要因になります。
廃番確定後の代替品設計・認証にかかるコストは、装備品によっては1アイテムに対し数億〜数十億円規模に達することがあります。防衛費の実質的な維持費圧迫要因として、財政当局にとっても無視できない問題になりつつあります。
株式会社MadeHereは、防衛および民間プラント・工場で発生する廃番部品課題を解決するソリューションを提供するデュアルユースのスタートアップです。
自衛隊が直面する構造的な供給網の空洞化に対し、MadeHereは在日米軍との協業を通じて磨いてきた以下の戦略的優位性をもって、廃番部品調達を支援します。
MadeHereは「稼働を絶やさない」をミッションに掲げ、"部品の消滅"が装備品の"可動停止"を意味しない未来の実現に向けて、自衛隊のDMSMS課題解決に取り組んでいます。